7月3日 読売新聞 編集手帳

 歌人島田修二さんは晩年、車にはねられる災難に遭った。事故のことを詠んだ連作がある。<大丈夫デスカトイフ声 ワカラナイ イマ一番ニ私ガ知リタイ>
 円熟した詩心の手にかかればこういう事柄も歌に昇華するのだと、読み返すたびに深く感じ入る一首である。ご難つづき、事故つづきの麻生首相を見るにつけ、その歌を思い出している
 自民党内の猛反発を受け、党役員人事を断念した。人事ひとつままならぬ人に解散の決断は「大丈夫デスカ」と問うても首相自身、「ワカラナイ 俺ガ知リタイ」と答えるだろう
 渡る気があれば電光石火で渡る。なければ、おくびにも出さない。それが「人事」という道の渡り方であり、道路の真ん中でぐずぐずしていては危ないに決まっている。横断禁止の赤信号を無理に渡って日本郵政の社長を続投させたときは、支持率急落の事故に遭った。交通安全の悪いお手本のような人である
 連作の一首。<モウイイ修二 モウイイ島田 起キナクテイイ 天ヲミテ居レ>。党内からの「モウイイ太郎 モウイイ麻生…」の声は、日を追って音量を増すばかりである。