7月11日 読売新聞 編集手帳

 小椋佳さんが作詞し、作曲した「ほんの二つで死んでゆく」という歌がある。ご自身の経験ではないが、事故で早世した2歳の男の子に捧げた曲という
 <雨が降る 僕はしずくをかき集め/ほんの二つで死んでゆく/あなたの小舟を浮かべたい…>。36年前の同名のアルバムに収められている。せつない歌詞を久しぶりに口ずさんでみた
 2歳の男の子、菅野優衣ちゃんが都内の自宅で死亡したのは昨年12月である。きのう、両親が逮捕された。ゴミ箱に押し込み、自力で脱出できないようにふたをして、窒息死させた疑いがもたれている
 <ゆりかごのうたを かなりやがうたうよ…>。カナダの小児病院で皇后さまが難病の子供たちに歌われた子守唄に、テレビの前で聴き入ったばかりである。おさな子が大好きな場所は、どこだろう。ゆりかごもそう、抱かれた母の胸もそう、肩車をしてくれる父の肩の上もそうだろう。ゴミ箱のなかではない
 雨のしずくを集めた湖の上で、おさな子の小舟は揺れる。小椋さんの歌は、次のように結ばれている。<はかない運命に死ぬ時も/ゆりかごにゆれているように>