7月2日 読売新聞 編集手帳

 老中松平定信は「寛政の改革」で文武に精を出すよう促し、これまでに学んだ師匠の名前を書き出せ、と旗本衆に命じた。遊び暮らす連中は困ったらしい
 弓は誰、馬は誰、学問は誰と、故人の名前ばかりを挙げ、「只今は皆、死去つかまつり候」と書く者が続出したと森鉄三「古人往来」(中央文庫)にある
 「うそも大概にせよ、貴殿のことなど存知申さぬ」とあの世から苦情が届くわけでもなし、書類のでっち上げに古人の名前が借用されるのは、今も昔もあまり変わらないようである
 鳩山由紀夫民主党代表の資金管理団体が故人などを「寄付者」と偽り、政治資金収支報告書に記載していた。架空の献金は約90人分、4年間で2177万円にのぼる。違法献金事件で辞任した小沢一郎前代表のあとを受けて「党の顔」になった人に、この不祥事は情けない
 責任逃れの魔法の言葉「秘書が」にも懲り懲りだが、たかだか千万円単位の“はした金”にまで目が届かなくて―とでも言いたげな反省の弁の軽さ、金銭に対する感度の鈍さについていけない。永田町には寛政ならぬ「感性の改革」が要る。